農業|農地所有適格法人
農地所有適格法人とは、農地の権利を取得して、農地を耕作し、農業経営を行なうことのできる法人のことをいいます。
「農地所有適格法人」という種類の法人形態が存在するわけではなく、一定の法人のうち、農地法に定められた要件を満たす法人を農地所有適格法人と呼びます。農地に関する権利取得の許可申請の中で、農地所有適格法人の要件を満たしているかどうか審査が行われます。
農業経営を法人化するメリット
農業経営を法人化することによって、次のようなメリットがあります。会社法に基づく農業法人を設立する場合は、一般的な法人を設立する際の手続きと同様です。
- 財務諸表の作成、経営報告などが義務化されることにより、金融機関や取引先に対する信用力の向上につながる
- 社会保険制度の整備によって従事者の福利厚生等が改善され、外部からの多様な人材確保が期待できる
- 多様な人材の確保により、経営の多角化など事業展開の可能性が広がり、経営の発展が期待できる
- 取引や契約締結が法人名義となるため、代表者が交替したときの事業承継が円滑にできる
- 法人の役員や従業員の中から、意欲ある有能な後継者を確保することができる
- 税制面で優遇措置を受けることができる(役員報酬を給与所得とすることで節税できる)
- 農業経営基盤強化資金(スーパーL資金)の貸付限度額が拡大される(個人3億円、法人10億円)
農地所有適格法人の要件
農地所有適格法人として農地の権利を取得するためには、次の「基本的な要件」に加えて、議決権や役員などの要件を満たすことが必要です。
基本的な要件
個人の場合と共通する「基本的な要件」として、次の2点があります。
- 農地のすべてを効率的に利用すること
- 周辺の農地利用に支障がないこと(たとえば、無農薬で農業を営んでいる地域で農薬を使用したりしないこと)
農地所有適格法人の要件
上記の「基本的な要件」に加えて、次の要件を満たすことが必要です。
- 法人形態が次のいずれかであること
- 農事組合法人(農業協同組合法を根拠とする法人)
- 株式会社(公開会社でないもの)
- 持分会社(合名・合資・合同会社)
- 農業およびその事業に関連する事業の合計売上高が、売上高全体の過半を占めていること
- 農業関係者が総議決権の過半を占めること
- 役員の過半が農業に原則150日以上従事する株主であること
- 役員又は重要な使用人の1人以上が農作業に原則60日以上従事すること
法人が農地を賃借する場合の要件
法人が農地を「賃借」する場合は、農地所有適格法人の要件を満たす必要はありません。上記の「基本的な要件」に加えて、次の要件を満たしていれば、賃借することができます。(農地所有適格法人も賃借できる)
- 貸借契約に解除条件(農地を適切に利用しない場合に契約を解除する)が付されていること
- 地域における適切な役割分担(集落での話し合いへの参加、農道や水路の維持活動への参画など)のもとに農業をおこなうこと
- 業務執行役員または重要な使用人が1人以上農業(農作業に限らず、マーケティング等経営や企画に関するものであっても可)に常時従事すること
農地所有適格法人となる際の注意点
農地所有適格法人になるにあたって、次のような注意点があります。
要件を満たし続けなければならない
農地の権利を取得した後も、農地所有適格法人の要件を満たし続けなければなりません。要件を欠くと、農地所有適格法人としての資格を喪失することになり、所有する農地の処分等に問題が発生することになります。
報告書を毎年提出しなければならない
毎事業年度の終了後3ヶ月以内に、農地等の所在地を管轄する農業委員会に報告書を提出しなければなりません。報告をしなかったり、虚偽の報告をした場合は、30万円以下の過料が課せられます。
社会保険料の負担が増加する
法人経営の場合は、健康保険と厚生年金保険は強制適用され、保険料は事業主(法人)と従業員で折半することになります。
また、従業員が1人以上いる場合は、労災保険と雇用保険も強制適用され、労災保険の保険料の全額と雇用保険の保険料の約3分の2を事業主(法人)が、残りを従業員が負担することになります。
雇用条件を整備しなければならない
常時雇用従業員が10人以上いるときは、労働条件や職場内の規律などを定めた就業規則の作成が義務付けられ、所轄の労働基準監督署長に届け出を行う必要があります。
おわりに
行政書士しょうじ事務所では、農地転用の許可申請をはじめ、農業への新規参入や法人化(株式会社、合同会社の設立)のお手伝いなど、農業経営全般の支援をさせていただいております。お困りごとがありましたら、お気軽にご相談ください。