相続|農地の相続税納税猶予制度

農地を相続すると相続税がかかり、農業を継続したくても、相続税を支払うために相続した農地を売却しなければならないといった事例が生じていました。相続税納税猶予制度は、自ら農業経営を継続する相続人(農業相続人)を税制面から支援するために設けられた制度です。

相続税納税猶予制度では、相続または遺贈により農地等(農地、採草放牧地及び準農地)を取得し、当該農地及び採草放牧地が引き続き農業の用に供される場合には、本来の相続税額のうち農業投資価格を超える部分に対応する相続税が、一定の要件のもとで納税が猶予され、農業相続人が死亡した場合や、農業相続人の後継者へ生前一括贈与をした場合などに、納税が免除されるという制度です。

「農業投資価格」とは、恒久的に農業の用に供される農地等として取引される場合に通常成立する「農地等本来の価格」であり、土地評価審議会を経て、国税局長が決定した価格のことです。農業投資価格は、国税庁ホームページ「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」の中の県ごとにある「財産評価基準書目次」の中の「農業投資価格の金額表」で確認することができます。

なお、相続時精算課税にかかる贈与によって取得した農地等については、この特例の適用を受けることはできません。

この特例の適用を受けるためには、次の要件に該当することが必要です。

対象となる農地等の要件

特例の対象となる農地等は、次の①から⑤までのいずれかに該当するものであり、相続税の期限内申告書にこの特例の適用を受ける旨を記載したものであることが必要です。

  • 被相続人が農業の用に供していた農地等で相続税の申告期限までに遺産分割された農地等
  • 被相続人が特定貸付け等を行っていた農地又は採草放牧地で相続税の申告期限までに遺産分割された農地又は採草放牧地
  • 被相続人が営農困難時貸付けを行っていた農地等で相続税の申告期限までに遺産分割された農地等
  • 被相続人から生前一括贈与により取得した農地等で、被相続人の死亡の時まで贈与税の納税猶予又は納期限の延長の特例の適用を受けていた農地等
  • 相続や遺贈によって財産を取得した人が相続開始の年に被相続人から生前一括贈与を受けていた農地等

被相続人の要件

被相続人は、次のいずれかに該当する人であることが必要です。

  • 死亡の日まで農業を営んでいた人
  • 農地等の生前一括贈与(贈与税納税猶予)をした人
  • 死亡の日まで特定貸付け又は認定都市農地貸付け等を行っていた人

農業相続人の要件

農業相続人は、被相続人の相続人で、次の①から④までのいずれかに該当する人であることが必要です。なお、①、②については、農業委員会の証明が必要となります。

  • 相続税の申告期限までに農業経営を開始し、その後も引き続き農業経営を行うと認められる人
  • 農地等の生前一括贈与の特例の適用を受けた受贈者で、特例付加年金又は経営移譲年金の支給を受けるためその推定相続人の1人に対し農地等について使用貸借による権利を設定して、農業経営を移譲し、税務署長に届出をした人
    ※贈与者の死亡の日後も引き続いてその推定相続人が農業経営を行うものに限る
  • 農地等の生前一括贈与の特例の適用を受けた受贈者で、営農困難時貸付けをし、税務署長に届出をした人
    ※贈与者の死亡の日後も引き続いて営農困難時貸付けを行うものに限る
  • 相続税の申告期限までに特定貸付け等を行った人(農地等の生前一括贈与の特例の適用を受けた受贈者である場合には、相続税の申告期限において特定貸付け等を行っている人)

この特例の適用を受けるためには、相続税の申告書を期限内に提出するとともに、納税猶予税額及び利子税の額に見合う担保を提供することが必要です。

また、相続税の申告期限までに特定貸付け等を行った農地又は採草放牧地につき、この特例の適用を受けるためには、原則として相続税の申告書に特定貸付け又は認定都市農地貸付け若しくは農園用地貸付けに関する届出書を添付して提出する必要があります。

納税猶予期間中の手続

この特例の適用を受けている農業相続人は、納税猶予税額の全部について免除されるまで又は納税猶予税額の全部について納税の猶予が打ち切られるまでの間、相続税の申告期限から3年目ごとに、引き続いてこの特例の適用を受ける旨及び特例農地等に係る農業経営に関する事項を記載した届出書(継続届出書)を提出しなければなりません。

継続届出書の提出がない場合には、この特例の適用が打ち切られ、納税猶予税額に利子税を加算して納付しなければなりません。

納税猶予を受けている相続税額は、次の場合に該当することとなったときは、その相続税額の全部又は一部を納付しなければなりません。

  • 特例農地等について、譲渡等(譲渡、贈与若しくは転用のほか、地上権、永小作権、使用貸借による権利若しくは賃借権の設定又はこれらの権利の消滅若しくは耕作の放棄を含む)があった場合
  • 特例農地等に係る農業経営を廃止した場合
  • 継続届出書の提出がなかった場合
  • 担保価値が減少したことなどにより、増担保又は担保の変更を求められた場合で、その求めに応じなかった場合
  • 都市営農農地等について生産緑地法の規定による買取りの申出があった場合(生産緑地法の規定による特定生産緑地の指定の解除があった場合を含む)
  • 特例農地等が都市計画の変更等により特定市街化区域農地等に該当することとなった場合(その変更により田園住居地域内農地又は地区計画農地保全条例制限区域内農地でなくなり、特定市街化区域農地等に該当することとなった場合を除く)
  • 準農地について、この特例の適用を受けた場合で、申告期限後10年を経過する日までに、農業の用に供されていない準農地がある場合

特例農地等の譲渡又は貸付け等をした場合には、上記のとおり納税猶予を受けている相続税額等を納付しなければなりませんが、一定の要件に該当する場合は、納税猶予の適用が継続する例外措置が設けられています。なお、例外措置を受けるためには、税務署への届出等所定の手続が必要です。

例外措置とは、たとえば、次のような場合に該当するときは、納税猶予の適用を継続することができます。

  • 農業経営基盤強化促進法等により担い手に貸し付ける場合(特定貸付け)
  • 身体障害等により営農継続が困難となった場合に貸し付ける場合(営農困難時貸付け)
  • 農地の譲渡から1年以内に、その対価を持って他の農地に買い換える場合(買換特例)など

行政書士しょうじ事務所では、農地転用の許可申請をはじめ、農業への新規参入や法人化(株式会社、合同会社の設立)のお手伝いなど、農業経営全般の支援をさせていただいております。お困りごとがありましたら、お気軽にご相談ください。