離婚|基礎知識
役所に離婚届を出せば離婚はできます。しかし、離婚前に相手と何の取り決めもなく離婚すると、離婚後に後悔したり、トラブルになったり、経済的にも苦労をする可能性があります。
離婚後の生活、仕事、お金のこと、子どものことなど、冷静に考え抜いた結果、離婚した方が良いと思えたら離婚に向けた準備を着実に進めていきます。
本ページでは、離婚前にどのようなことを決めなければならないのか、必要となる基本的な知識と併せてお伝えしていきます。
離婚の種類
離婚には次のような種類があります。それぞれの離婚方法と特徴を理解しておきましょう。
協議離婚
協議離婚とは、当事者である夫婦が、離婚をすることと親権や財産分与などの離婚条件について話し合い、合意することで離婚する方法です。
費用もかからず最も簡単な方法ですが、当事者同士の話し合いで感情的になり、勢いで離婚してしまうこともあります。また、夫婦で合意した内容を書面に残していなかったり、法的な視点が抜けてしまうこともあります。
離婚後、養育費等の金銭不払いのトラブルが起こりやすいため、後悔しないようにしっかりと準備する必要があります。
調停離婚
夫婦での話し合いがまとまらない場合に、夫婦の一方が家庭裁判所に離婚の調停を申し立て、中立の立場である調停委員が話し合いを調整し、夫婦が合意することで離婚する方法です。
第三者の調停委員を介するため、当事者同士が顔を合わせることがなく、冷静に話を進めやすくなります。
双方が合意すると、裁判所が合意内容を記載した調停調書を作成します。この調停調書は裁判の判決と同じ効力をもち、記載された内容に従わなかった場合は「強制執行」という手段をとることができます。
審判離婚
審判離婚とは、調停が不成立の場合でも「離婚した方がよい」と裁判所が判断して成立する離婚方法です。
審判離婚が利用されるケースとしては、離婚することには合意しているが親権、慰謝料、養育費などの条件面でわずかに合意できず調停不成立となった場合などです。2週間以内に双方から異議申立がなければ離婚が成立します。
認諾離婚
認諾離婚とは、裁判の途中で被告側が原告側の要求をすべて受け入れることで成立する離婚方法です。
和解離婚
和解離婚とは、離婚訴訟の途中に当事者が話し合いによって離婚をした場合の離婚方法です。訴訟のどの段階においても、当事者が話し合いをして裁判上で和解をすることで和解離婚が成立します。
裁判離婚
調停が不成立となった場合に、夫婦の一方が家庭裁判所に離婚裁判を起こし、離婚が認められるかどうかを裁判で決める方法です。
離婚できるかどうかの判決が出るまでに長い時間がかかります。また、裁判は原則一般公開されるため、精神的な負担も大きくかかります。
離婚前に決めておくこと①自分の戸籍と姓
夫婦の戸籍において筆頭者ではなかった夫または妻は、離婚すると夫婦の戸籍から除籍されます。
除籍される配偶者(多くの場合は妻側)は、婚姻前の戸籍(親の戸籍)に戻るか、自分を筆頭者とする新しい戸籍を作るか、どちらにするのか考えておく必要があります。新しい戸籍を作る場合は、旧姓と婚姻時の姓、どちらの姓でも自由に選ぶことができます。
離婚前に決めておくこと②お金の問題
離婚前に話し合う必要のあるお金の問題には、婚姻費用、財産分与、慰謝料、養育費、年金分割があります。
婚姻費用
衣食住の費用、医療費、交際費、娯楽費、子どもの養育費など、結婚生活を続けるために必要な費用が婚姻費用の対象となります。
婚姻中の夫婦は、この婚姻費用を2人で分担するのが原則です。婚姻関係にある限り、離婚を見据えての別居中であっても、収入の少ない方から収入の多い方に対して婚姻費用を請求できます。
婚姻費用の金額は、双方の合意した金額か、家庭裁判所の審判で決めた金額となります。家庭裁判所のウェブサイトで公開されている養育費・婚姻費用算定表を使うと、婚姻費用の目安を算出することができます。
財産分与
婚姻中に2人で築いた財産はお金に限らず全てを精算します。基本的には婚姻中の財産を全て合算し、2分の1に分割します。ただし、独身時代の財産や相続によって得た財産は財産分与の対象外です。
財産分与の対象となるもの
- 自宅にある現金
- 婚姻期間中に築いた預貯金
- 不動産(土地・建物)
- 自家用車
- 結婚後に購入した家財道具
- 退職金(婚姻期間中のものが対象)
- 個人年金(婚姻期間中のものが対象)
- 子どもの学資保険
- 絵画などの美術品
など
財産分与の対象外
- 結婚前の預貯金
- 結婚前からの所有物
- 相続で得た財産
- 別居後に取得したもの
など
不動産が含まれる場合の財産分与
不動産(土地、建物)が財産分与の対象になっている場合、離婚後にどのように取り扱うかを決めておく必要があります。財産分与をする上で一番複雑で面倒な作業になります。大きく分けると次のケースが考えられます。
Case 1:不動産を売却後、その売却額を分与する
Case 2:共有名義のどちらか一方に名義変更し、所有された方が住む
Case 3:共有名義のどちらか一方に名義変更し、所有されていない方が住む
一番単純なケースがCase1になります。Case 3は使用者と所有者が異なるため、将来問題が発生する可能性があります。Case 2は不動産を残した場合での最良のケースだと思われます。
ただし、不動産の名義変更には登録免許税が発生しますし、名義変更に伴い財産分与分よりも過大な不動産の場合、贈与税がかかる可能性があります。また、所有権移転登記をする際には司法書士又は弁護士による登記が必要であり、登記するにあたり離婚協議書又は公正証書等の書類が必要になります。
不動産にローンが残っている場合は、上記の使用者、所有者のほかに誰がローンを支払うのか(債務者)も考慮に入れる必要があり、より検討が複雑になります。
慰謝料
慰謝料は、相手の不法行為によって受けた精神的苦痛に対する損害賠償です。
不法行為の具体例としては、不倫などの不貞行為、身体的・精神的な暴力行為、生活費を渡さないなどの悪意の遺棄などが挙げられます。慰謝料を請求するためには相手の不法行為を証明できるような証拠をそろえておく必要があります。
慰謝料が請求できるかどうか、相場はどれくらいか、一度、離婚問題に強い弁護士に相談されることをおすすめします。
年金分割
2008年4月に施行された年金分割制度により、国民年金の第3号被保険者は、2008年4月以降の婚姻期間中における厚生年金記録の半分の分割を受けられるようになりました。これを3号分割といいます。2008年4月以前の婚姻期間における厚生年金記録を分割する場合は相手の合意が必要です。
また、共働きでどちらも厚生年金に加入している場合でも、相手の合意があれば年金分割を受けられます(合意分割)。
3号分割、合意分割どちらの場合も離婚の翌日から2年以内に申請が必要です。離婚したら自動的に手続きが行われるものではありません。忘れずに手続きを済ませましょう。
離婚前に決めておくこと③子どものこと
未成年の子どもがいる場合は、親権、養育費、面会交流、子どもの戸籍と姓について、離婚前に決めておく必要があります。
両親の離婚によって子どもの生活環境は大きく変わります。子どもの気持ちと将来を一番に考えて話し合うことが大切です。
親権
婚姻中は両親の「共同親権」ですが、離婚後は現在の民法の定めに従って「単独親権」となります。夫婦のどちらが親権をもつか決めなければ離婚届を出すことができません。
親権には、子どもの世話や教育をする身上監護権と、子どもの財産を管理する財産管理権の2つが含まれており、子どもの生活とお金を守ることが主な役割です。親権をどちらがもつか話し合いで合意できれば一番ですが、合意できない場合は調停を申立て解決を図ります。
養育費
養育費は子どもが社会人として自立するまでに必要となるお金です。
養育費の支払いは長期間に及ぶため、支払う側の生活環境や経済的な変化により不払いになる可能性があります。不払いへの対処として、金額など合意した内容を強制執行が可能な公正証書で作成しておくことをおすすめします。
養育費の目安は、裁判所がウェブサイトで公開している算定表がありますので活用されるとよいでしょう。親の年収、子どもの人数・年齢により、養育費の目安がわかります。
面会交流
離婚した相手に子ども会わせるのは抵抗があるかもしれませんが、双方の親から大切に思われていると実感してもらう機会として面会交流は大切です。面会の頻度・時間、面会日、場所、連絡方法など、なるべく具体的に決めておくと、子どもも親も安心できます。
子どもの戸籍と姓
子どもの戸籍と姓は離婚後も変わりません。親権者の戸籍に自動的に入るわけではありません。
離婚後、筆頭者ではない配偶者は夫婦の戸籍から除籍されますので、婚姻前の戸籍(親の戸籍)に戻るか、自分を筆頭者とする新しい戸籍を作ることになります。新しい戸籍は旧姓でも婚姻姓でもどちらでも選べますが、親の戸籍に戻った場合は子どもを同じ戸籍に入れることはできません。
子どもを自分と同じ戸籍に入れたい場合、先ずは家庭裁判所に「子の氏の変更許可申立書」を提出して、子どもを自分と同じ姓にそろえる許可を得ます。許可を得た後で役所に「入籍届」を提出することで、自分の戸籍に子どもを入れることができます。
関連記事:戸籍|離婚・再婚したらどうなる?
離婚協議書の作成
相手が離婚することに合意したら、上述のような離婚の条件について協議します。
話し合いで合意することができたら、離婚協議書あるいは公正証書により、合意した内容を文書に残しておきます。ここでは、離婚協議書と公正証書について簡単にご紹介します。
関連記事:離婚|離婚協議書のつくり方
離婚協議書
離婚協議書は自身で作成することができます。離婚協議書は、作成日時と2人の署名捺印があれば法的に有効です。書かれた内容が実行されず裁判となった場合は証拠となります。
ただし、離婚協議書には強制力がないので、金銭の不払いなどのトラブルが起こった場合、裁判を起こさずに相手の資産を差し押さえることはできません。
専門家に依頼する費用はかかりますが、養育費などの不払いが心配な場合は、強制執行ができる公正証書の作成をおすすめします。
公正証書
正式には「離婚給付等契約公正証書」と呼ばれ、法律の専門家である公証人が中立・公正な立場で作成します。
公正証書を作成する1番のメリットは、養育費などの不払いがあった際に、裁判所に強制執行の申し立てができることです。これにより相手の給与や個人名義の預貯金を差し押さえることができます。
また、原本とデジタル記録は公証役場が保管するため、記載内容に関する夫婦間のトラブルを防ぐことができ、さらに支払う側への心理的なプレッシャーにもつながります。
公正証書の内容は離婚協議書を基に作成されるのが一般的です。また、公正証書の作成手数料は、公正証書で取り決められた慰謝料、財産分与、養育費などの各項目の金額によって算出されます。
ひとり親家庭への支援制度
手当の支給、就労支援、税金の控除など、ひとり親を支援するさまざまな公的制度が有ります。自治体によっては水道・下水道料金の減額制度などもあります。支援制度の利用には自治体ごとの条件や審査があるので、お住まいの市区町村の窓口で相談したり、役所のホームページで自分が利用できる制度はあるかどうか調べるなど、積極的に情報を集めることが大切です。
宮城県仙台市では、ひとり親の方に向けて、相談機関や支援制度などの情報がまとめられたひとり親サポートブック「うぇるびぃ」と「うぇるびぃmini」がホームページで公開されています。役所の担当窓口でも配布されているようですので、ご活用いただきたいと思います。
おわりに
行政書士しょうじ事務所では、離婚協議書作成のお手伝いをさせていただいております。公正証書を作成する際には、平日に夫婦おふたりで公証役場に出向く必要がありますが、わたしたち行政書士は代理人として公証役場に出向き、代わりに手続きを行うことができます。離婚協議書・公正証書の作成についてお困りごとがありましたら、ぜひご相談ください。