遺言書|遺言執行者は何をする人?

法的に有効な遺言書を作成し、その中で遺言執行者(=遺言書に記載した内容を実現するための手続をする人)を指定しておくと、スムーズに相続手続きを進めることができ、相続争いの回避にも役立ちます。本ページでは、遺言執行者の概要と職務内容についてお伝えしていきますのでご参考下さい。

遺言執行者とは

遺言執行者は、遺言者の死後、財産の名義変更や子どもの認知など遺言書に記載された内容を実現する役割を担う人です。遺言執行者には単独で相続手続きを進めることができる権限があり、不動産の登記や金融機関の口座解約手続も行うことができます。

遺言執行者になれる人

遺言執行者になるための特別な資格や条件はなく、未成年者と破産者でなければ、個人に限らず法人でも遺言執行者になることができます(民法1009条)。

ただし、遺言執行の手続には相応の時間と手間がかかり、法律事務も多分に含まれるため、法的知識のある専門家(弁護士、司法書士、行政書士、税理士など)の就任が望ましいでしょう。

遺言執行者の選任方法

遺言執行者は、次の3つの方法によって選任することができます。

  • 遺言書で遺言執行者を指定する
  • 遺言書で第三者に遺言執行者の選任を委託する
  • 家庭裁判所に選任してもらう

① 遺言書で遺言執行者を指定する

たとえば、「長男○○を遺言執行者に指定する」などと遺言書に記載することで、遺言執行者を指定する方法です。

② 遺言書で第三者に遺言執行者の選任を委託する

遺言執行者を誰にするか遺言時に決められない場合は、「遺言執行者を選任してほしい人」を遺言書で指定することができます。

遺言執行者の選任を委託された人は、相続開始後、遅滞なく遺言執行者を指定して相続人に通知しなければなりません。遺言者からの委託を受けないことも可能であり、辞退する場合も遅滞なく相続人に通知する必要があります。

③ 家庭裁判所に選任してもらう

遺言書に遺言執行者が指定されていない、あるいは、指定されていた遺言執行者が亡くなっているなど、遺言執行者がいない場合は、遺言者が亡くなった後、相続人が家庭裁判所に申立てをすることで、遺言執行者を選任してもらうことができます。

遺言執行者の権限

遺言執行者は「遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する」(民法1012条第1項)とされており、具体的には次のような権限があります。

  • 遺言認知の届出
  • 遺言による推定相続人の廃除
  • 遺贈
  • 相続に関する諸手続き
  • 復任

遺言執行のなかには、遺言認知(民法781条第2項、戸籍法64条)や推定相続人の廃除(民法893条)のように、遺言執行者にしかできないことがあります。これらのことを遺言で実現したい場合は、遺言書に遺言執行者を指定しておかなければなりません。

遺言認知の届出

法律上の婚姻関係にない男女の間に生まれた子どもとの間に、法律上の親子関係を生じさせるためには、「認知」という手続きが必要です。認知は生前に行うことができますが、遺言によって死後に認知(=遺言認知)することもできます。

遺言認知の場合、遺言執行者は、就任してから10日以内に認知に関する遺言の謄本を認知届に添付して市区町村役場に提出しなければなりません(戸籍法64条)。

遺言による推定相続人の廃除

被相続人が生前に相続人から虐待や重大な侮辱を受けていた等の理由から、相続人に財産を相続させたくないと考えたときには、廃除の手続きによって推定相続人を相続人から除外することができます。

相続人の廃除は、生前に行うことができますが、遺言によって死後に廃除することもできます。相続人の廃除が遺言書でなされたときには、遺言執行者が家庭裁判所に相続人の廃除の申立てをすることになります。

遺贈

「遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる」と定められており(民法1012条第2項)、遺言執行者がいるときには、遺言執行者のみに遺贈の履行義務があります。

相続に関する諸手続き

遺言執行者は、預貯金の解約や払戻しの請求、不動産登記や動産の引き渡しなどの相続に関する諸手続きを行なうことができます。

復任

遺言執行者は自己の責任で第三者にその任務を行わせることができます(民法1016条)。これを遺言執行者の復任権といいます。

遺言執行者の職務内容

遺言執行者に就任すると、次のような業務を行うことになります。

  • 就任通知書、遺言書の写しを相続人全員に交付する
  • 相続人調査
  • 相続財産の調査、財産目録の作成、相続人への交付
  • 遺言内容を実現する手続
  • 業務完了報告

① 就任通知書、遺言書の写しを相続人全員に交付する

遺言執行者に指定されたとしても、必ずしも受諾する必要はなく、遺言執行者に就任するかどうかは自分で決めることができます。

ただし、相続人その他の利害関係人から遺言執行者の就任を承諾するかどうか回答するように求められた場合、相当の期間内に回答をしなかった場合は、就任を承諾したものとみなされます(民法1008条)。

遺言執行者への就任を承諾したときは、就任通知書を作成し、遺言書の写しとともに相続人全員に送付します。

② 相続人調査

遺言執行者に就任後、まずは被相続人の相続人が誰であるかを、収集した戸籍により調査し、確定させる必要があります。相続人を確定できたら、法定相続情報一覧図などを作成しておくとよいでしょう。

③ 相続財産の調査、財産目録の作成、相続人への交付

被相続人の財産目録を作成するために、被相続人の財産の調査を行います。預貯金については各金融機関に照会をし、不動産については市区町村役場から名寄帳を取得するなどして、被相続人の財産を明らかにしていきます。

財産目録とは、対象となる相続財産をわかりやすく整理した文書です。書式に特に決まりはありません。対象が不動産であれば、所在地や物件の種類、構造などを記載します。預貯金の場合には、金融機関名、支店名、口座番号等を記載します。

なお、相続の対象となるのは、現金や不動産、預貯金だけではありません。借金などの債務も相続財産に含まれることがあるため、目録には債務も記載します。

作成した財産目録は、被相続人の遺産の内容を明らかにするために、各相続人に送付しなければなりません。

④ 遺言内容を実現する手続

遺言執行者は、遺言内容を実現するため、遺言書の内容に従って、相続人への財産の引き渡し、財産の名義変更、相続財産の登記などの手続を行います。

⑤ 業務完了報告

業務がすべて終了したら、遺言執行者は相続人に対して遅滞なく業務の経過や結果を報告しなければなりません。報告書に記載する内容としては、遺言執行にかかる業務の内容、手続きを実行した日付や業務期間中の収支内訳などが挙げられます。

遺言執行者の報酬

遺言執行の費用は、相続財産から負担することが民法に定められています(民法1021条)。費用の内容は、遺言執行者の報酬のほか、各種手続き(自筆証書遺言の検認、相続財産の目録、預貯金解約など)の費用となり、これらの費用が相続財産から支払われます。

相続人を遺言執行者に指定する際には、報酬を定めない場合もありますが、専門家に依頼する場合は報酬の支払いが生じます。遺言書に報酬額を明記することが望ましいですが、記されていない場合は、遺言執行後に遺言執行者が家庭裁判所に申立てを行い、遺言執行者の状況や執行の際の労力などを考慮して、家庭裁判所が報酬額を決めることがあります。

遺言執行者の辞任・解任

指定された遺言執行者は就任を拒否することができ、就任してから辞任をすることも可能です。ただし、就任後の辞任には正当な理由が求められ、病気や引っ越しなどを理由に客観的に職務の継続が困難である場合に、家庭裁判所に申立てをすることで辞任の手続きを行うことができます。

また、相続人等が遺言執行者を解任する際にも相応の理由が必要となります。たとえば、遺言執行者として果たすべき任務を怠ったり、不正の疑いがあるなどの場合には、家庭裁判所へ遺言執行者の解任を請求することができます。

行政書士しょうじ事務所では、遺言書の作成や相続手続きのお手伝いをさせていただいております。お困りごとがありましたら、お気軽にご相談ください。