相続|遺留分侵害額請求

遺留分

遺留分とは、法定相続人が相続できる財産の最低限の割合のことです。これは、被相続人の生前の贈与又は遺贈によっても奪われることのないものです。

例えば、「財産はすべて介護でお世話になった施設の職員さんに渡す」という内容の遺言が残されていたとしても、法定相続人には最低限の割合の財産を請求する権利があるということです。

遺留分が認められている人

遺留分は次の人たちに認められています。

  • 配偶者(夫または妻)
  • 直系卑属(子、孫など)
  • 直系尊属(父母、祖父母)

遺留分が認められていない人

次の人たちには遺留分は認められていません。

  • 兄弟姉妹
  • 相続欠格に該当する人
  • 廃除された人
  • 相続放棄をした人
  • 相続放棄をした人の子ども

遺留分の割合

遺留分の割合は、相続人の組み合わせによって下表のように異なります。

相続人の組み合わせ財産の総額に対する遺留分の割合
配偶者と子の場合配偶者:4分の1
子:4分の1
配偶者と父母の場合配偶者:3分の1
父母:6分の1
配偶者と兄弟姉妹の場合配偶者:2分の1
兄弟姉妹:なし
配偶者のみの場合配偶者:2分の1
子のみの場合子:2分の1
父母のみの場合父母:3分の1
兄弟姉妹のみの場合兄弟姉妹:なし
<相続人の組み合わせと遺留分の割合>

遺留分の放棄

遺留分が認められている相続人は、相続の開始前(被相続人が生きているとき)であっても、家庭裁判所の許可を得て、遺留分を放棄することができます(民法第1049条)。仮に、共同相続人の1人が遺留分を放棄したとしても、他の各共同相続人の遺留分が増えることもなく、影響を及ぼすことはありません。

相続の放棄をすると、もとから相続人ではなくなるのに対し、遺留分の放棄は「遺留分のみ」を放棄するだけで、相続権は失いません。

遺留分侵害額の計算

遺留分侵害額は、まず遺留分算定の基礎となる財産額を求め、そこから各相続人の遺留分を求めます。各相続人が相続する財産の額と遺留分を比較し、遺留分侵害額を求めます。

遺留分を算定するための財産の価額を求める

遺留分を算定するための財産の価額は、次の式により算出します(民法第1043条)。

遺留分算定の基礎となる財産額
=(①被相続人が相続開始時に有していた財産の価格) + (②贈与した財産の価格) ー (③相続債務の全額)

①被相続人が相続開始時に有していた財産の価格

相続開始時に保有している預貯金、土地・建物といった不動産などの財産の価格です。預貯金は通帳や残高証明書の記載から価額がわかりますが、不動産の場合は評価により価額を算定しなければなりません。不動産の評価の方法として、地価公示・都道府県地価調査(土地)、相続税路線価(土地)、固定資産税課税評価額(土地・建物、不動産鑑定評価額(土地・建物)など複数の方法があります。

②贈与した財産の価格

贈与した財産の価格は、次の金額を集計します。

  • 相続開始前10年間分の相続人に対する生前贈与の価額(※婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与の価額に限る)
  • 相続開始前1年間分の相続人以外の第三者に対する生前贈与の価額
  • 当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ったうえで贈与した価額(期間の制限なし)

③相続債務の全額

被相続人に借金などの負債がある場合は、その全額を差引きます。

遺留分侵害額の計算方法

遺留分侵害額は、相続人それぞれの遺留分から、特別受益額や相続した積極財産を差し引き、負債も相続していればその額を加えます。遺留分侵害額の計算を式で表すと、次のようになります。

遺留分侵害額
=(遺留分) - (遺留分権利者が被相続人から相続で取得すべき財産額)-(遺留分権利者の特別受益額+遺留分権利者が受けた遺贈額)+(遺留分権利者が相続分に応じて承継した相続債務の額)

遺留分侵害額の計算例1

次の条件をもとにして、被相続人Aの財産を、子B、子Cが相続するケースの計算を考えてみます。

(1)相続財産

  • 預貯金 1,000万円
  • 自宅不動産 3,000万円
  • 賃貸マンション 7,000万円

(2)相続債務

  • 借金 1,000万円

(3)計算は次のようになります。

  • 遺留分算定の基礎となる財産額=1,000万円+3,000万円+7,000万円ー1,000万円=1億円
  • 遺留分の割合=4分の1
  • 遺留分額=1億円×4分の1=2,500万円

以上の計算より、仮にAがBに全財産を相続させる遺言があった場合、Cの遺留分侵害額は3,000万円(=遺留分2,500万円+相続債務1,000万円x2分の1)となり、CはBに対して3,000万円の遺留分侵害額請求ができます。

遺留分侵害額の計算例2

次の条件をもとにして、被相続人Aの財産を、配偶者Bおよび子C・子Dが相続するケースの計算を考えてみます。

(1)相続財産

  • 自宅不動産 3,000万円
  • 預貯金 1,500万円
  • 生前贈与 子Cに750万円、Aの妹Eに750万円(いずれも死亡日から4か月前)

(2)計算は次のようになります。

  • 遺留分算定の基礎となる財産額=3,000万円+1,500万円+750万円+750万円=6,000万円
  • 妻Bの遺留分の割合=4分の1
  • 妻Bの遺留分=6,000万円x4分の1=1,500万円
  • 子C・子Dの遺留分の割合=8分の1
  • 子C・子Dの遺留分=6,000万円x8分の1=750万円

以上の計算より、仮にAが全財産をCに相続させる遺言があった場合、BはCに対して1,500万円、DはCに対して750万円の遺留分侵害額請求をすることができます。

また、Aが全財産をBに相続させる遺言があった場合、DはBに対して750万円の遺留分侵害額請求ができますが、CはBに対して遺留分侵害額請求はできません。それは、Cが受けた生前贈与が「遺留分権利者の特別受益額」として遺留分額から差し引かれ、Cの遺留分侵害額が0円(=750万円-750万円)となるためです。

遺留分侵害額請求の方法

遺留分侵害額の請求には次の3つの方法があります。

  • 内容証明郵便で証拠を残し、意思表示する
  • 遺留分侵害額請求調停で請求する
  • 遺留分侵害額請求訴訟を起こす

まずは意思表示をして話し合いをします。話し合いで解決しなかった場合は、調停で遺留分の請求を申立てます。調停でも合意できなかった場合は、訴訟を起こすことになります。

① 内容証明郵便で証拠を残し、意思表示する

意思表示をする際には証拠を残すために、内容証明郵便で請求することが一般的です。請求先が複数の場合は原則として全員に、それぞれの受け取った財産額に応じ、案分した遺留分侵害額を請求することになります。

② 遺留分侵害額請求調停で請求する

話し合いで解決できなかった場合は、家庭裁判所に遺留分侵害額請求調停を申立てます。相手方の住所地の家庭裁判所又は当事者が合意で定める家庭裁判所に申立てます。

申立てが認められると、家庭裁判所の調停委員が当事者双方の事情を聴いたり、必要に応じて資料等を提出するなどして事情をよく把握したうえで、解決案を提示したり、解決のために必要な助言をしたりして、話合いを進めていきます。

※2019年7月1日より前に被相続人が亡くなった場合、この申立てはできません(遺留分を侵害された者は、改正前民法の規定に基づき、贈与又は遺贈を受けた者に対し、遺留分侵害の限度で贈与又は遺贈された物件の返還を請求する遺留分減殺による物件返還請求等の調停の申立てをすることになります)。

③ 遺留分侵害額請求訴訟を起こす

調停でも合意できない場合や相手が応じない場合、被相続人の最後の住所地を管轄する地方裁判所または簡易裁判所に訴状を提出して訴訟を起こします。

遺留分侵害額請求の期限

遺留分侵害額請求権は、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年又は相続開始の時から10年を経過したときに時効によって消滅します(民法第1048条)。

遺留分侵害額請求の相手方となる者の順位と、その負担限度額については、次のように定められています。

遺留分侵害額の負担の順位

遺留分侵害額請求の相手方となる受遺者、受贈者は、以下の順序で遺留分侵害額を負担することになります(民法第1047条第1項)。

  • 受遺者と受贈者があるときは、受遺者が先に負担する。
  • 受遺者が複数あるとき、または、受贈者が複数ある場合においてその贈与が同時になされたものであるときは、受遺者または受贈者がその目的の価額の割合に応じて負担する。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思表示をしたときはその意思に従う。
  • 受贈者が複数あるときで、異なる時期に贈与されたものであるときは、後の贈与にかかる受贈者から順次前の贈与にかかる受贈者が負担する。

遺留分侵害額の負担の限度

受遺者等が負担する遺留分侵害額は、遺贈または贈与の価額が限度とされています。この贈与については、遺留分を算定するための財産に算定されるものに限られているので、贈与を受けたのが相続人以外である場合には原則として相続開始前1年間にしたもの、相続人である場合には原則として相続開始前10年間にした特別受益に限り、負担額の算定で考慮されます。

遺留分侵害額請求と遺留分減殺請求の違い

遺留分侵害額請求は、2019年7月1日以降に開始した相続に対して適用される制度です。一方、遺留分減殺請求は、2019年6月30日以前に開始した相続に対して適用される制度です。

どちらの制度も侵害された遺留分を請求する点は同じですが、両制度の大きな違いは、請求して何を取り戻すのか、という点にあります。遺留分減殺請求権は「遺産そのものを取り戻す権利」、遺留分侵害額請求権は「侵害額に相当する額の金銭を取り戻す権利」です。

遺留分減殺請求の場合、遺産に不動産が含まれると遺留分減殺請求をして不動産がそれぞれの持分に応じて共有状態になり、かえってトラブルの原因となることがありました。一方、遺留分侵害額請求の場合は侵害された額を金銭で取り戻すので、財産が共有状態になり揉めるという心配はありません。