相続|農地を相続したときの手続き

遺産分割や遺言、遺贈によって農地を相続した相続人は、農地のある市町村の農業委員会に対して、その旨を届け出なければなりません。この届出は、農業委員会が農地の権利移動を把握するために必要な手続きです。

農地を相続したときは、「法務局での相続登記」、「農業委員会への届出」の2つの手続きを行なう必要があります。

通常、農地を売買等で所有するためには許可が必要です。さらに、許可が与えられるのは、そこで農業を営む者に限定されます。しかし、相続によって農地を取得する場合は、農地法第3条による許可が不要となり、簡単な届出のみで済ませることができます。

法務局での相続登記

まずは、農地の所在地を管轄する法務局で相続登記を行います。相続登記とは、農地の所有者を被相続人(亡くなった方)から相続人に名義変更するための手続きです。

この相続登記は令和6年4月1日から義務化されており、農地の所有権取得を知った日から3年以内に相続登記をする必要があります。遺産分割協議により農地を取得した場合は、遺産分割協議が成立した日から3年以内が申請期限となります。

正当な理由なく期限内の登記を怠った場合は、10万円以下の過料が科される可能性がありますので注意が必要です。

関連記事:相続|相続登記の義務化

農業委員会への届出

農地の相続登記が完了したら、農地が所在する市町村の農業委員会に届出を行います。届出は、相続開始を知った日からおおよそ10カ月以内に行うようにします。

届出に必要な書類

農業委員会への届出に必要な書類は、「届出書」と「相続したことを確認できる書類」の2つです。このうちの「届出書」は農業委員会のホームページからダウンロードでき、次の項目を記載するようになっています。

  • 農地を取得した人の住所、氏名
  • 届出書の対象となる農地の所在・地番・地目など
  • 農地を取得した日
  • 農地を取得した事由
  • 取得した権利の種類及び内容
  • 農業委員会によるあっせん等の希望の有無

農地を相続したものの、遠方に住んでいて自分で農地を管理することが難しい方や、自分で農業経営するつもりはないという方は、「農業委員会によるあっせん等の希望の有無」の回答欄で「希望する」を選択しておくといいでしょう。すぐには農地の買手・借手は見つからないかもしれませんが、後々その機会が訪れるかもしれません。

また、「相続したことを確認できる書類」としては、相続登記を終えた後の登記事項証明書を利用するのが一般的です。

注意点

  • 農地を相続したことの届出をしなかったり、虚偽の届出をした場合は、10万円以下の過料に処せられることがあります。
  • 相続した農地が土地改良区の受益地となっている場合があります。その場合は組合員を変更する手続きも必要になります。土地改良区の受益地となっているかどうかは農業委員会に確認するようにしましょう。
  • 農業用倉庫などの未登記建物がある場合には、市町村の税務課などに名義変更の届出を行う必要があります。

「農地は相続するけど自分では農業経営はしない」「遠方に住んでいて管理に困るので農地を手放したい」という場合、相続人は次のような方法で、農地の活用・処分を検討する必要があるでしょう。

  • 相続放棄する
  • 農地のまま売却する・貸し出す
  • 宅地などに転用して売却する・活用する
  • 相続土地国庫帰属制度を利用する

相続放棄する

相続開始後3か月以内に家庭裁判所に相続放棄の申し立てを行うことで、農地を含む財産の相続を放棄できます。

なお、相続放棄をすると、農地だけではなく、預貯金や不動産なども含めすべての財産を放棄することになります。農地だけを相続放棄することはできないので、慎重に検討することが必要です。

農地のまま売却する・貸し出す

相続した農地で農業をする予定がない場合には、相続した後に売却する、或いは、誰かに農地を貸す、という選択肢があります。

宅地などに転用して売却する・活用する

相続した農地を、ほかの目的に変えて活用する方法です。自分で農業を行わない人は、駐車場経営や賃貸住宅を建設して運営するなど、別の用途で活用するという選択肢もあります。

相続土地国庫帰属制度を利用する

相続土地国庫帰属制度とは、一定の要件を満たしている土地であれば国が引き取ってくれる制度です。所有している土地の管理に困っている場合は、本制度の利用を検討するのもよいでしょう。

関連記事:相続|相続土地国庫帰属制度とは

関連記事:相続|相続土地国庫帰属制度の申請手続き

「相続税納税猶予制度」は、相続税の支払いのために農地を売却せざるを得ないという問題が生じないよう、農業経営を継続する相続人を税制面から支援するために創られた制度です。

相続等によって農地を取得した相続人が、その農地で引き続き農業を営む場合には、一定の要件のもとに農地に対応する相続税の納税が猶予されます。

相続税納税猶予の特例を受けるための要件

相続税納税猶予の特例を受けようとする場合は、農業委員会が発行する「適格者証明書」が必要です。この「適格者証明書」は、被相続人と相続人が、相続税納税猶予の特例を受けるための適格要件に該当することを証明する書面です。

この制度の適用を受けられる被相続人の要件は「死亡日まで農業を営んでいた人」、相続人の要件は「相続税の申告期限までに、相続で取得した農地等で農業経営を開始し、その後も引き続き農業を行うと認められる人」とされています。

なお、相続時精算課税に係る贈与によって取得した農地等については、この特例の適用を受けることはできません。

関連記事:相続|相続時精算課税制度とは

行政書士しょうじ事務所では、相続手続き・遺言書作成のお手伝いをさせていただいております。農地を相続した際のお手続きついてお困りごとがありましたら、ぜひご相談ください。