相続|相続財産に含まれるもの・含まれないもの

「相続財産」とは、相続によって引き継がれることになる財産(権利や義務)のことをいい、現金預金などのプラスの財産だけではなく、借金などのマイナスの財産も含まれます。民法上では「被相続人の財産に属した一切の権利義務」を相続財産と定義されていますが、何が相続財産に含まれて、何が含まれないのか、代表的なものを見てみましょう。

民法上の相続財産に含まれるものの代表例は、下表のとおりです。

項目具体例
プラスの財産(資産・権利)・現金
・預貯金
・有価証券(株式、国債・地方債、社債、投資信託など)
・不動産(宅地、建物、農地、山林、駐車場など)
・動産(自動車、バイク、船舶、貴金属、美術品、骨董品、家財道具など)
・債権(貸付金、売掛金など)
・借地権・借家権
・ゴルフ会員権
・著作権
・慰謝料請求権
・損害賠償請求権
・知的財産権(著作権、意匠権、特許権、商標権など)
マイナスの財産(負債・義務)・債務(借金、借入金、ローンなど)
・未払金(家賃、地代、水道光熱費、医療費・介護費用など)
・未払い税金(所得税・住民税・固定資産税など)
・損害賠償義務

民法上の相続財産に含まれないものの代表例は、下表のとおりです。

項目具体例
被相続人の一身専属権・親権者としての権利義務や地位
・養育費や婚姻費用等の請求権・受給権
・年金受給権
・生活保護の受給権
・公営住宅を使用する権利
祭祀財産・仏壇や仏具
・お墓
・神棚
・先祖からの系譜(家系図)
・位牌
生命保険金・被相続人が保険料負担者である生命保険金
死亡退職金・被相続人が所属していた勤務先から支給された死亡退職金
その他、遺族が受け取る財産・香典
・弔慰金
・未支給の公的年金
・遺族年金 など

被相続人の一身専属権

「一身専属権」とは、権利の性質から被相続人の人格や才能、法律上の身分などから被相続人個人のみに属する権利のことをいいます。被相続人の一身専属的な権利義務は、その権利の性質上、別人である相続人に帰属させることができないため、相続財産から除外されます。

たとえば、次のような権利や義務は、一身専属的な権利・義務として、相続財産には含まれません。

  • 雇用契約における使用者・被用者の地位
  • 特定デザイナーによる製作や芸術作品を作る債務
  • 生活保護受給権
  • 各種年金の受給権
  • 公営住宅の使用権
  • 著作者人格権 など

祭祀財産

系譜(家系図など)、祭具(位牌、仏壇、仏具、神棚など)、墳墓(墓石、墓碑、埋棺など)といった、祖先の祭祀のための財産は相続の対象になりません。

祭祀財産は、祖先の祭祀を主宰すべき者(祭祀主宰者)が承継するもので、祭祀主宰者は、①被相続人の指定(遺言でも可)、②指定がない場合には慣習、③慣習が明らかでない場合には家庭裁判所の審判、の順番で定められます。

祭祀承継者に特別な資格はなく、誰がなってもかまいません。相続人・親族以外の第三者がなることも可能です。また、祭祀承継者は、通常の相続手続きとは別に定めることになるため、相続放棄をした人であっても祭祀承継者になることができます。遺産を相続したくないと相続放棄をしても、祭祀承継者になってお墓を承継する可能性はあります。

生命保険金

あまり見られないケースではありますが、受取人が「被保険者自身」である場合(貯蓄型の生命保険)は、相続財産に含まれます。この場合、生命保険金請求権は、相続開始時点で被相続人が有する財産として、相続財産に含まれることとなるためです(民法第896条)。

これに対して、受取人が「相続人中の特定の者」である場合には、原則、相続財産に含まれません。また、受取人を特定せず、単に「相続人」としている場合も、保険契約に基づく相続人固有の財産とされます。

しかし、生命保険金の額や相続人の事情などを考慮して、公平性を保つために、生命保険金が特別受益として持ち戻し(生命保険金の額を遺産総額に加算して遺産分割を行う)の対象となる場合もあります。例えば、次に挙げるようなケースに該当すると、特別受益として持ち戻しの対象となる可能性があります。

  • 生命保険金の金額が遺産総額と比べてあまりにも高額である場合
  • もともと被相続人と疎遠だった人が多額の生命保険金を受け取った場合
  • 経済的に困窮している相続人を差し置いて、裕福な相続人が多額の生命保険金を受け取った場合 など

死亡退職金

死亡退職金は、公務員や民間企業の従業員の死亡に際して、勤務先から支払われ、法律・内規・就業規則等で、受給権者の範囲や順位が決められています。

最高裁の判例では、職場の退職手当に関する規定が、受給権者の範囲、順位について民法の規定する相続人の順位決定の原則と異なる定め方をしている場合には、死亡退職金の受給権は相続財産に属さず、死亡退職金は受給権者が自己固有の権利として取得するものと判じています。

その他、遺族が受け取る財産

上記の他、遺族が受け取る財産として、香典や弔慰金は、慣習上、喪主あるいは遺族への贈与であって、相続財産にはならないと解されています。遺族年金も死亡退職金と同様に、受給者固有の権利なので、相続財産には含まれません。

未支給年金は相続財産になる?

未支給年金は、相続財産には含まれません。被相続人が亡くなった当時、生計を同じくしていた遺族(配偶者、子、父母など)の固有財産となり、相続税の課税対象にはなりません。なお、遺族が支給を受けた未支給年金は、支給を受けた遺族の一時所得に該当します。

相続放棄をすると死亡保険金も受け取れなくなる?

生命保険金は原則として受取人の固有財産であり、民法上の相続財産には含まれません。従って、受取人が相続放棄をしていても、生命保険金を受け取ることができます。ただし、税法上は相続財産に含まれる「みなし相続財産」であるため、相続税の課税対象になります。

一方、生命保険金の受取人が「被相続人本人」の場合には、生命保険金が相続財産に含まれるため、相続放棄をした相続人は生命保険金を受け取ることができません。

生命保険金や死亡退職金など、相続財産の対象にならないものでも、税法上では相続税の課税対象になるものがありますので、税務上の注意点もよく確認しておくことが大切です。

行政書士しょうじ事務所では、相続手続きのお手伝いをさせていただいております。相続手続きについてお困りごとがありましたら、ぜひご相談ください。