相続|家族信託の手続きの流れ

家族信託を利用する際の全体像を把握しておきましょう。

まずは専門家に自身の状況について早いうちに相談することが大切です。家族信託を使った方が良いケースもあれば、他の制度を利用した方が良い場合もあります。

そして、家族の協力なしに家族信託の実現は難しいので、家族とよく話し合って、納得してもらうことが重要です。

家族信託を行うために信託契約書を作成します。信託契約書はパソコンなどで誰でも作成できる「私文書」と、公証人が作成する「公正証書(公文書)」があります。

家族信託契約の効力を確実なものとするためには、公正証書の方式で契約書を作成することをおすすめします。

私文書公正証書
メリット・自分の都合の良いときに作成できる。
・費用がほとんどかからない。
・偽造されるリスクがない。
・公証人が委託者と受託者に契約内容と作成意思を確認するので、後々のトラブルが起こりにくい。
・原本は公証役場で保管されるため、正本・謄本を紛失した場合でも、謄本を再発行してもらうことができる。
デメリット・偽造される可能性がある。
・委託者が無理矢理サインをさせられる可能性がある。
・信託契約日の時点で委託者の判断能力がなかったにも関わらず作成される可能性がある。
・契約書の原本を紛失するリスクがある。
・公証役場での手数料がかかる。

公正証書作成の流れ

信託契約書を公正証書で作成する場合の流れはおおむね次のようになります。

(1)家族信託契約の内容を検討する

家族信託をすることに決めたら、信託内容として以下の項目を決める必要があります。専門家や家族とよく話し合いながら決めていきましょう。

  • 家族信託を行う目的
  • 委託者(信託する財産の所有者)
  • 受託者(委託者から財産を預かって管理する人)
  • 受益者(信託財産から得られる利益を受け取る人)
  • 信託財産(委託者が受託者に管理を任せる財産)
  • 信託期間(信託契約の有効期間)
  • 残余財産の帰属先(信託期間終了後に残っている財産を取得する人)

(2)家族信託契約書の条項を作成する

正式な契約書を公正証書で作成する前に、家族信託契約書の条項を作成しておきます。

実際に契約書の条項を作成する際には、明確な文言を用いて、かつ取り決めた内容を漏れなく記載しなければなりません。契約書作成に特有の言い回しや注意点なども存在し、正確に条項を作成するためには十分に注意する必要があります。

(3)公証役場で公正証書作成の手続きをとる

家族信託契約の条項が確定したら、公証役場に予約を取り、公正証書作成の手続きを行います。

まずは公証人に対して、事前に作成した家族信託契約の条項を送付し、公正証書作成の準備作業を行ってもらいます。そして、公正証書作成の準備が整った段階で、契約当事者が公証役場に足を運び、最終確認のうえで原本に署名・押印します。その後、公証人により、公正証書の原本に署名・押印がなされることで、公正証書は完成します。

完成した公正証書の原本は、公証役場で保管されます。契約当事者には公正証書の正本および謄本が交付されますので、大切に保管しておきましょう。

なお、公証役場に持参すべき主な必要書類は以下の通りですが、信託財産の内容や当事者などによって異なります。

  • 信託契約書
  • 当事者の本人確認書類
  • 当事者の印鑑証明書
  • 信託財産が不動産の場合は、登記事項証明書、固定資産評価証明書(または固定資産税課税証明書) など

信託契約の効力発生後、その属する月の翌月末日までに、「信託に関する受益者別調書」と「信託に関する受益者別調書合計表」を税務署に提出します。ただし、委託者と受益者が同一の場合には提出は不要です。

不動産を信託財産とする場合、信託登記が必要です。信託登記を行うと、不動産の登記簿の所有者欄に受託者の住所や氏名等が記載されます。また、登記簿の中に「信託目録」が情報として公開されます。信託目録には信託の目的や受託者の権限などが書かれており、それを誰でも簡単に確認できるようになります。

信託登記を行い、受託者の名前が登記簿に記載されると、受託者は法的にその不動産の所有者として扱われることになります。信託の目的の範囲内において、必要であれば物件を売却することもできます。賃貸物件の場合は、新規契約・更新・解除の手続なども行うことができます。

また、信託登記後は固定資産税納税通知書が受託者宛に届きます。受託者は納税義務を負いますが、受益者から預かったお金で支払うことができるので、受託者個人が負担する必要はありません。

不動産を信託財産とするときの注意点

不動産を信託財産とするためには、所有権の移転と信託登記を行う必要がありますが、ローンの返済が完了していない不動産の場合は注意が必要です。

ローンを組む際の契約で、金融機関の承諾を得ずに所有者の名義を換えてはいけないという規定が何らかの契約書でうたわれている場合、信託契約や信託登記を行うことは契約違反となるおそれがあります。金融機関には事前に信託財産の概要や信託の趣旨などを情報提供し、承諾を得ておくようにしましょう。

受託者には、受託者個人の資産と信託財産を明確に分けて管理する義務(分別管理義務)があるため、信託専用の口座を新たに開設します。

信託専用の口座は、信託口口座(しんたくぐちこうざ)と個人口座のいずれかの口座で管理します。可能であれば信託口口座を開設しておきたいところですが、すべての金融機関で取り扱っているわけではないため、どうしても信託口口座を作れない場合には、受託者の個人名義の口座を新規で開設し、それを信託専用の口座とします。

信託口口座とは

信託口口座とは、口座の名義を見ただけで、信託財産を管理していることがわかる口座のことです。信託口口座を作っておけば、もし受託者が死亡したり受託者自身が破産や税金の滞納をしても、預金が凍結されたり差し押さえられることはありません。

信託口口座と個人口座の違い

信託口口座と個人口座には、下表のような違いがあります。

信託口口座個人口座
口座の名義委託者+受託者受託者
(※屋号として、「委託者○○、受託者△△」と入れる場合もある
金融機関への相談必要不要
取扱銀行大手金融機関
一部の地方金融機関
全国の金融機関
口座の開設時間時間がかかるすぐに開設できる
公正証書による信託契約書必要とされる場合が多い不要
受託者が死亡・破産した場合などスムーズに引き継ぐことができる引き出せなくなるリスクがある

公正証書での信託契約書の作成や、信託口口座の開設には手間や時間がかかるものです。行政書士しょうじ事務所では、信託契約書の作成対応をはじめ、家族信託に関して幅広くご相談に対応しております。ご不明な点などありましたら、お気軽にご相談ください。